『背中に名前を書かなければならないなんて誰が言った? アルガルヴェ・カップにおける「背番号の上」の可能性』

(文:河内一馬)

背中に「背番号」は、無くてはならないものです。サッカーに関して言えば、背番号がなければマークを決定することが非常に困難になります。さらに、スター選手の中には、背番号とともに伝説に残っているケースも少なくありません。「義務」として制定されているのかどうか定かではありませんが、無ければならないものであることは間違いないでしょう。では、背番号の上に書いてある「名前」はどうでしょうか?今回はそんな「背番号の上」のお話です。 


「背番号の上」には 

ほとんどのサッカーユニフォームの背中には、背番号に加えて、選手の名前が入っています。日本のサッカー選手の背中には「苗字」がそのまま入っていることが多く、ある時日本の女子バレー代表が背番号の上に「ニックネーム」や「下の名前」を入れているのを見て驚いたことを覚えています。確かに何を入れても競技に支障はなさそうだし、苗字でも、下の名前でも、ニックネームでも、何でもいい気がします。そして「名前」自体入れる必要もないのかもしれません。 


スウェーデン女子サッカー代表 

(写真:http://www.abc.net.au/news/2017-03-02/swedish-womens-football-team-swap-jersey-names-for-tweets/8318048


「背番号の上」を新しい発想で有効活用したチームがあります。

スウェーデン女子サッカー代表のユニフォームには、名前の変わりに女性への「メッセージ」が入れられています。 これは、現在ポルトガルで行われている女子サッカーの国際大会「Algarve Cup」に向けて行われているプロジェクトで、「若い女性に刺激を与え、動機付ける」ことを目的に、選手自ら選んだメッセージを背番号の上に入れて試合を行うというものです。

(写真:http://creativity-online.com/work/adidas-sweden-inyourname/51123


「Women want different things(女性は“他とは違うもの”が欲しい)」や「To try is to be successful. The result is secondary as long as you dare(トライすることは成功すること。結果は挑戦することによって得られる二次的なものである。)」など、様々な「女性が発した」メッセージを背中に入れることで、世界における女性の尊厳を守ろうという思いが込められています。 


ユニフォームの可能性 

サッカーのユニフォームには、大きな可能性があります。スポンサーが多額のお金を提供していることからもわかるように、世界のサッカーファンが最も目にする機会が多いユニフォームには、大きな効果を生む価値があります。冒頭で触れたように、これまでにはペレの「10」や、ベッカムの「7」など、背番号に強烈な印象を残していった選手たちもいます。その一方で、「背番号の上」に書いてある名前には、あまり印象はないのではないでしょうか?今回のスウェーデンのプロジェクトをきっかけに、「背番号の上」が様々なことに利用され、今後伝説の背番号と同じように、強烈に印象に残る「背番号の上」が残ることもあるかもしれません。


(写真:https://www.soccer-king.jp/news/world/ger/20161105/511752.html 


以前、adidasと海洋保護団体「PARLEY FOR THE OCEANS」のコラボレーションによって、バイエルン・ミュウヘンとレアルマドリードが海洋廃棄物で作られたユニフォームで試合を行い、海洋廃棄物に対する意識を啓蒙するプロジェクトが行われたことは、日本でも報道されました。多くの人が目にするサッカーのユニフォームには、想像以上に大きな可能性が秘められているのかもしれません。


【プロフィール】 

 河内一馬。 

 1992年東京都生まれ。「FOOTBALLとは、一体何なのか?」を探るためにアジア、ヨーロッパを周り、教育、文学、アート、カルチャーの視点からFOOTBALLを表現するウェブサイト『Looking for Football』を立ち上げる。https://lookingforfootball.themedia.jp