サッカーを「観せる」という責任

(文:河内一馬)

サッカーは、実際に「やる」からおもしろいのであって、実際に「観る」からおもしろいのであって、それでこそ大きな力を持つのだと思います。そしてその機会は全員に与えられるべきであり、これまでも記事の中で、それについて多く触れてきました。僕自身もこれまでの人生の中で、初めて行ったスタジアム、アジアやヨーロッパで行ったスタジアムの記憶は鮮明に残っていて、サッカーの力をもっとも強烈に感じる瞬間でもあります。


 サッカーを“観せる”という責任 


過去の記事でEUROカップにおける、Social Responsibility(社会的責任)の記事中で、スタジアムの「アクセス」について書きました。すべての人にとってアクセスがしやすいように、スタジアムの造りや制度を工夫し、たとえ障がいのある車椅子の方でもサッカー観戦を楽しめるよう、EURO2016ではサッカーを“観せる”という責任を果たしました。 


 たとえお金がなくても… 

(写真: https://sports.vice.com/en_us/highlight/bundesliga-club-darmstadt-98-to-provide-free-season-tickets-for-low-income-fans


ドイツ・ブンデスリーガに所属する「SVダルムシュタット98」も同様に、プロクラブとしてサッカーを“観せる”責任を果たしています。SVダルムシュタット98は決して大きなクラブではないですが、低資金の中で結果を出し続け、見事2014/15シーズン、ブンデスリーガ1部昇格を果たしました。 同クラブは2016年、低所得者のサッカーファンに向けて、無料でチケットを提供する計画を発表しました。ドイツのサッカーマガジン「キッカー」によると、ファンが「社会保障カード」の所持を証明できる限り、無料のシーズンチケットを申請できると報じています。「社会保証カード」は低所得者の労働者や年金受給者、または大家族の子供や青少年が所得できるカードです。 


「資金力=チーム力」 


「資金力が豊富なクラブが結果を出す」ということは、現代サッカーの揺るぎない事実なのかもしれません。しかし一方で、低資金の中でも結果を出し続けているクラブもまた存在し、トーナメント等の一発勝負の試合においては、これまで「ビッククラブ」が資金の乏しいクラブに敗戦を喫するという歴史は数多く存在します。僕はそこにこそ、サッカーという競技の素晴らしさを感じます。「資金力=チーム力」という法則を必死に崩し続けるクラブが存在し続ける限り、サッカーはいつまでも、僕らに感動を与えてくれます。 

(写真: http://footballtripper.com/stadion-am-bollenfalltor-darmstadt-98/


ただ、それには同じ「アイデンティティ」を共有する「ファン」の存在が欠かせません。選手自身も、これまで下位リーグに所属し、給料が少ない中でも多くの選手が残留することで結果を出してきました。同じアイデンティティを共有する「ファン」の偉大さを理解しているからこそ、同クラブは低所得者に対するサッカーを“観せる”という責任を果たそうとしているのかもしれません。 


これまでも同クラブは長い期間、プロクラブにおける「社会的責任」を果たそうと努力をしてきました。個人的に、その中でもこのキャンペーンは一段と素晴らしいものだと思います。スタジアムでサッカーを観るということは、サッカーを愛する人に最も大きな感動を与え、影響を与え、人の人生を変える可能性すらあると感じます。お金がないことによって、スタジアムでサッカーを観ることを奪われてしまう人が減っていくことになれば、サッカーの力はより大きくなっていくのではないでしょうか。日本にも、このようなクラブが出てくることを期待します。 


終わり。


【プロフィール】 

 河内一馬。 

 1992年東京都生まれ。「FOOTBALLとは、一体何なのか?」を探るためにアジア、ヨーロッパを周り、教育、文学、アート、カルチャーの視点からFOOTBALLを表現するウェブサイト『Looking for Football』を立ち上げる。https://lookingforfootball.themedia.jp