「存在しない」人々のフットボール

(文:河内一馬)

世界には、私たちが知らない人種や民族、そして地域が数え切れないほど存在します。もしも意識的に知ろうとするようなことがなければ、当然それらと私たちは関わりを持つことはなく、多くの人種や民族、地域のことを知らないまま人生を終えてしまいます。今日は「知るはずのなかった」かもしれない人々と、サッカーのお話です。


「存在しない」人々

(画像:©AFP時事) http://www.jiji.com/jc/article?k=2016121900443&g=isk 


皆さんは、「ロヒンギャ」という人々を知っているでしょうか? 

彼らは主にミャンマーとバングラディシュにまたがって暮らす、イスラム教を宗教とする人々のことです。無知な私は、その名前すら知りませんでした。 現在ロヒンギャの多くの人々は、国籍を持たないと言われています。詳しい歴史的な背景はここでは触れませんが、かつての仏教徒との争いによってミャンマーを追放されたロヒンギャは、隣国バングラディシュへの亡命を試みるも認められず、再びミャンマーに戻ることになります。それから彼らは、どこの国にも属していないという今の状態が続いてしまっているのです。 


難民認定をされない現実 

ロヒンギャの人々は国籍を持たないため、世界各地に亡命を試みるも「難民認定」をされることがなく、「不法入国者」として扱われてしまいます。そのため多くの虐殺や国外追放が行われてきました。ここ日本でも、これまで多くのロヒンギャが難民申請を試みましたが、強制送還されたケースが多いそうです。それでも現在約230人のロヒンギャが日本で暮らしていると言われていますが、彼らは本来国籍を持ちません。日本では彼らをミャンマー国籍とし、グレーゾーンとして扱われているのが現状のようです。


サッカーというコミュニティ

(画像:© James Rose, The Kick Project)

 https://www.sportanddev.org/en/article/news/peace-goal-myanmar 


世界中のどこにもコミュニティを持つことが許されていないロヒンギャ。そんな彼らを「サッカー」が救うことになるかもしれません。 オーストラリアの高等弁務官(宗務国が植民地に置いた施政の責任者)の組織が行っているプロジェクトよって、彼らにサッカーをプレーする機会がもたらされました。 このプロジェクトは、特に子ども達がサッカーをプレーできるように、ウェアの提供、グランドまでの送迎、コーチングを受ける機会などを与えることで、サッカーという一つの「コミュニティ」を作り出そうとしています。 サッカーをすることで、世界中のどこにも「存在していない」かのように扱われているロヒンギャの人々が、新たにコミュニティを作ることができます。

大切なのはただサッカーをして楽しむだけではなく、サッカーをすることでできたコミュニティを他のコミュニティとつなげることで、長期的なつながりを生み出すことです。 


サッカーが作り出す可能性 

(画像:© UNHCR/ Ted Adnan  https://www.japanforunhcr.org/archives/10772 


サッカーで他のコミュニティや他国との経路を開通することができれば、これから先の未来、ロヒンギャの存在が確かに認められ、再び国籍を取り戻す日が来るかもしれません。サッカーには、国を動かす力があります。そしてそれは、これまで多く証明されてきました。ボール一つあれば出来るサッカーがスポーツやエンターテイメントであると同時に、国や世界を良くする手段として使われていけば、政治やお金では解決できない問題も解決することができます。 ただでさえ、今こうして「サッカー」というものを通じてしか知るはずのなかった「ロヒンギャ」を知ることができました。 それだけでも、ものすごく大きな意味があったのではないかと思います。 ロヒンギャ問題がイスラム過激派に波及し活動が活性化されることが懸念されている今、彼らを救うのはミャンマーでも、アジア諸国でもなく、サッカーかもしれません。 


終わり。


【プロフィール】

河内一馬。

1992年東京都生まれ。「FOOTBALLとは、一体何なのか?」を探るためにアジア、ヨーロッパを周り、教育、文学、アート、カルチャーの視点からFOOTBALLを表現するウェブサイト『Looking for Football』を立ち上げる。https://lookingforfootball.themedia.jp