「やさしさ」の欧米サッカーリーグ・ランキング
(文:加藤遼也)
2016年もあと少し。今年もサッカー界でいろんな出来事がありましたね。良いこと悪いこと、嬉しかったこと悔しかったこと、1年を振り返りながら年の瀬に「やっぱサッカー捨てたもんじゃないね、というか良い!」って気持ちになれたらと、今日は「やさしさ」で欧米サッカーリーグをランキングする取組みを紹介します。
(©streetfootballworld)
サッカーリーグを「やさしさ」で比較するRESPONSIBALL
「やさしさ」のサッカーリーグランキング、と勝手に名付けていますが、それがRESPONSIBALL。
RESPONSIBALLは、全18ヶ国の各クラブを「ガバナンス」、「環境保全」、「コミュニティ」の3分野での活動をリーグ単位で評価したランキングです。
3分野の内容をざっくり言うと、「ガバナンス」は、不法行為防止や収益力を高める組織経営を良くする取組み、「環境保全」はエコ活動などの地球環境にやさしい取り組み、「コミュニティ」とはクラブがある町を豊かにする取組みのことです。
つまり、RESPONSIBALLは、クラブ経営に関係する人たち、地球環境、地域の人たちに対してどれだけやさしい取り組みしているかを評価しています。
イメージ的に、シーズン中のリーグ順位やデロイト・フットボール・マネーリーグに代表される収入の長者番付がクラブの「強さ」を表すのに対し、RESPONSIBALLは、「思いやり」や「やさしさ」のランキングという言葉が似合うと思い、今回の投稿ではそんなタイトルをつけてみました。
サッカークラブによる「やさしい」活動が増えていけば、サッカーってなんかいいねって思う人は増えるでしょうし、私たちの暮らしが少しずつ豊かになるんじゃないかなと思います。結果、サッカーの社会的価値は向上していきますし、「やさしい」取組みは、日本のクラブにとってもビジネスと同レベルですごく大事だと考えています。
実は昨年もRESPONSIBALLを紹介しました。2年続けて紹介したいのは、ランキング結果をお伝えしたいというよりも、私たち自身がJリーグとクラブに「強さ」と同じくらい「やさしい」活動を求める意識や、Jリーグ、チームが「やさしい」取組みで評価されインセンティブを与えられる仕組みについて考え、議論するきっかけになればと思っています。
ランキング結果と事例
さて、今年のランキング結果ですが、上位3位は1位エールディヴィジ(オランダ)、2位スーパーリーグ(デンマーク)、3位プレミアリーグ(イングランドとなり、昨年と全く同じになりました。
(©RESPONSIBALL)
http://responsiball.org
1位のエールディヴィジは、分野別で見ても、環境保全1位、コミュニティ2位、ガバナンス4位といずれも上位にランクインしています。
(上位リーグの細かい活動内容を紐解きたいところですが、言語を読めず断念しました、、、今度みなさんと一緒に勉強会でもして理解深められたら嬉しいです。。。)
実は上位にランクインしていないリーグでも各クラブが相当レベルの高い取組みをしています。
●FK Austria Wien / オーストリア
FK Austria Wien は、通常、企業が投資家・ステークホルダー向けに提出しているサステナビリティレポート(環境・社会・経済の観点から持続可能な経営を行っていることの報告書)を国際基準GRIに基づく高いレベルで発行している。
http://www.fk-austria.at/de/business/violett-ist-mehr---/der-bericht/
●デポルティボ・ラ・コルーニャ / スペイン
デポルティボ・ラ・コルーニャは、公式ウェブサイトに詳細な「Code of Conduct(行動規範)」を掲載し、暴力行為、人種差別や外国人差別、ハラスメント、環境保全、労働安全衛生や汚職防止に対する指針を公開している。
http://www.canaldeportivo.com/descargas/15-16/RCD_Codigo_Etico.pdf
●アウグスブルク / ドイツ
世界で初めて「カーボンニュートラル」のスタジアムを建設。通常、冬シーズンにはピッチを温めるため1試合で10,000リットルの石油を必要とするが、このスタジアムでは地下水を温めることや電力に再生可能エネルギーを使用することで、無駄な化石燃料の削減、年間で750トンのCO2削減を実現している。
http://www.fcaugsburg.de/cms/website.php?id=/index/stadion/co2neutralitaet.htm
* カーボンニュートラルとは、何か一連の活動をする際、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素量が同じである、という概念。
(画像: http://www.managenergy.net/resources/1437#.WGNyv8c3D_o )
●Randers FC / デンマーク
雇用・就業を支援する市内のジョブセンターと協力し、18歳〜67歳の市民を対象に就業トレーニングや人材紹介、就職の斡旋を行うほか、地元企業と就職希望者の受入れを実施している。
http://www.randersfc.dk/index.php?menu=34&side=5761
●FC Lusern / スイス
国が定める「バリアフリー建築の基準」SIA500に準拠してスタジアムを建設。視覚障害、聴覚障害、車いすを使用する観客など、障がい者それぞれが必要な情報にアクセスでき試合観戦を楽しめる環境を提供している。
https://www.fcl.ch/menschen_mit_behinderung
●AEK FC/ ギリシャ
「Compassion for Refugees」という難民支援プロジェクトを実施。選手、コーチ、フロントスタッフ、会長も一緒に、スポンサー企業とともに難民に対する人道支援をおこなっている。
http://www.aekfc.gr/newsdetails/i-proti-drasi-tis-aek- 47589.htm?lang=el&path=1778857578
(© AEK FC) http://www.aekfc.gr/newsdetails/anthropia-gia-tous-prosfyges-47564.htm?lang=en&path=-1818764692
そのモチベーションはどこから来るのか?
このように、「サッカークラブとは何か?」を考えさせるほど、普通のサッカークラブが社会課題の解決に向けた取り組みを実施しています。
全てのクラブが同じレベル感で実施しているとは思いませんが、なぜサッカークラブがわざわざ時間や労力をかけ、専門外の分野で「やさしい」活動を実施するのでしょうか。そのモチベーションは一体どこから起きるのでしょうか。
人や社会の役に立ちたいという思い、可哀想だから何とかしたい、クラブとしてできることをやろうという情熱など、当然そうした感情が源泉となることもありますが、私は、クラブ自身が、サッカークラブとして存在することの「社会的責任」を理解していることが関係していると考えます。
社会的責任を理解すること
サッカークラブの 「社会的責任」。
耳馴染みのない言葉かもしれませんが、「クラブとして存在する以上、するべき行動」のようなものです。ある活動を実施するとき、「できることをやる」起点ではなく、当たり前に「すべきこと」を起点に始まります。
例えば、私たちはよく「サッカーを通じて子どもに夢や希望を!」という言葉を耳にします。これはサッカーが「できることをやる」から語られる例です。 「できることをやる」という活動なので、平たく言えば結果に対する責任はありません。
一方で、「すべきこと」を起点とする社会的責任に基づく活動は、クラブにとってその活動をすることは当たり前であり、結果に対するコミットメントもあります。その中には、安定した経営をすることも含まれます。つまり、お金を稼ぐ経営と 「やさしい」取組みをすることが同じプライオリティにあります。上で紹介したクラブは、強いサッカーチームをつくること、経営を安定させることと同レベルで、クラブに関わる人・地球環境・町の人に「やさしい」取組みをすることをサッカークラブの社会的責任として捉えているがゆえに、専門外のことであっても時間、労力をかけ本気で取り組めているのだと感じます。
これからのこと
Jリーグが開幕して20年弱。
今もし、サッカークラブに「サッカークラブとは何か?」と質問し、サッカーファンに「サッカークラブに求めるは何か?」と質問した場合、それぞれの答えはどれほど一致し、どのくらい異なるのでしょうか。
日本でも、欧州と同じように、各クラブが地域活動をはじめ、緊急災害時の支援活動、アジアにおける国際支援など多様な活動を実施しています。その背景には、ファンづくりやスポンサー獲得の有効手段として活用されるケースもありますが、東北大震災や熊本地震もきっかけにファンがクラブに求める内容が変化していることも影響していると感じます。ただ「強い」チームではなく、「強くて、やさしい」チームになって欲しいと。
「やさしい」活動において実績、ノウハウ、現場で活動する人材、活動に共感するファンが増え、その下地のある日本が、今後「強くて、やさしい」チームづくりを進めていくために、2つの案を考えました。
1つは、Jリーグまたは第三者機関がクラブの「やさしい」活動を評価・表彰し、賞金を与えるなどの、インセンティブのある仕組みをつくること。
クラブの現状は、チーム成績や収益を上げることの優先度高く、「やさしい」活動は優先度低くなります。ただ、どのクラブも地域とのつながりを豊かにする活動がクラブにとってもファンにとっても大切であることを分かっています。「やさしい」活動が評価され、収入的にも広報面でもインセンティブのある仕組みがあると、「やさしい」活動に力を注ぎやすい環境が作れるのではと思います。また、情報が集約され役立つ情報にアクセスしやすくなること、他事例を参考に活動の質が改善されることも期待できます。
そうして徐々に地盤が固まってきた段階で、もう1つの提案です。
Jリーグクラブライセンス制度に、子ども、環境、地域、ダイバーシティなどに対するやさしい取組みの「社会貢献」分野を追加すること。
現在のクラブライセンス制度は、AFCのそれを網羅する形式で「競技」、「施設」「組織運営・人事体制」「財務」「法務」の5分野で要件を設けています。そこに社会貢献分野を追加し、クラブの社会的責任として「やさしい」取組みを進めていく形にします。
私たちひとりひとりがキーパーソン
日本と海外のサッカーが比較される場合、「日本はサッカーの歴史が浅く、まだサッカーの文化が根付いていないから」というようなことが言われますが、文化をつくるのは時間ではなく人です。人が文化をつくります。 私たちひとりひとりがそのキーパーソン。
私たちはすでに経験として、サッカーが人の生き方や考え方に影響を与えることを知っています。サッカーだからこそ多くの人に元気、笑顔、生きがいや夢を与えることができると知っています。ゆえにたくさんの人がサッカーをツールに活用し、社会に対して様々な活動を行っています。
2017年はそうした人の思い・行動が集合する機会がより一層増え、暮らしを豊かにする「やさしい」取組みが当たり前となるサッカーの文化づくりに有益な1年になりますように!
今年も1年ありがとうございました!!
終わり。
【プロフィール】
加藤遼也
love.fútbol Japan代表。1983年愛知県生まれ。2011年以降南アフリカ、アメリカ、ドイツ、日本のNGOで「サッカーを通じた社会問題解決」の分野でプログラム開発、事業計画、ファンドレイジングを担当。2013年、日本人で初めて同分野で世界を牽引する、「streetfootballworld」に所属し日本展開の事業計画策定に従事。その後、子ども支援を専門とする某国際NGOにて法人ファンドレイジング、緊急ファンドレイジングを担当。
0コメント