社会貢献性で評価するリーグランキングが日本サッカー界に送るメッセージ。
ここ数年、サッカーの社会貢献を目にする機会が増えています。そうした活動を見て、そのチームや選手に対する見方が変わったという経験をしたことはありませんか?
日常的にふれるサッカーの情報は試合結果やハイライト、選手の活躍が多いですが、将来、リーグやチームは社会貢献性で評価される時代がやってくるかもしれません。
今年の9月に、欧州を中心に各国サッカーリーグの社会的責任を評価する「RESPONSIBALL」 の第5回ランキングが発表され、オランダリーグのエールディヴィジが初の1位を獲得しました。エールディヴィジは、初回の5位から毎年着実に順位を上げ、期待通りの1位となりました。
*RESPONSIBALL Ranking http://www.responsiball.org/ranking
このRESPONSIBALLは、2011年にサッカー界の社会的責任を促進するために設立されたプラットフォームで、ネットワークをつくる、事例を共有する、そして今回のようにランキング化して、サッカー界の社会意識を啓発する役割を担っています。
このランキングは、各リーグの各チームを①環境への取組み(Environment)、②フェアで安定した経営体制(Governance)、③地域発展(Community)という3分野を50個の指標で評価し、平均値の高さで順位付けをしたものになります。特徴の1つは、地元地域への貢献だけでなく、地球規模の社会問題への取組みを評価対象としていることです。
また、指標は世界中の企業が「サステナビリティレポート」を作成する時に指針とする「GRI」と呼ばれるガイドラインも利用しており、RESPONSIBALLも国際標準のランキングを目指していることを伺わせています。
現時点でこのランキングは各リーグに改善を義務化する拘束力を持っていませんが、リーグやチームを業績、戦績だけでなく、社会的責任を軸に評価していく仕組みは、サッカーが人・企業を惹きつけるコンテンツとして成長するために役立つと考えています。
これまでのランキングにJリーグが入っていない理由は、恐らく英語の情報ソースが少ないからだと想像できます。すでにJリーグでも毎年スタジアム観戦調査で「地域貢献度」を数値化していますので、他の社会問題への取組みを含めて総合的にランキング評価した場合、どういう結果になるか考えてみると面白いと思います。
個人的に、RESPONSIBALLのような社会的責任を軸に評価する流れを今後の日本サッカー界にも歓迎しています。
いきなりリーグに導入することやチームに義務としなくても、次第にチームの社会貢献が評価されインセンティブが得られる環境が整っていくことは、社会貢献活動を経営戦略の一環として選択できるという利点があります。
では、日本サッカー界はRESPONSIBALLの取組みからどんなメッセージを受けとることができるでしょうか。
具体的に2つ挙げてみます。
1つ目は、チームブランディングの再定義について考えてみること。
冒頭で、サッカーの社会貢献活動を見て、チームや選手に対する見方が変わった経験がある人のでは?という話をしましたが、社会貢献活動は人の価値観を変えることを得意とします。チームが社会貢献活動を強化し、成果を出せば出すほど、人々のチームに対する印象は良くなります。特徴的なのは、チーム勝敗や選手の移籍に左右されにくいこと。その好印象は一過性ではなく長く維持されること。サポーターが誇りに思うこと。他チームのサポーターやサッカーに興味が低い層も巻き込めることです。競技は変わりますが、DeNA横浜ベイスターズが国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンとともに選手のホームラン1本につきソーラーランタンをミャンマーの無電化地域に寄贈するというプロジェクトを始めたとき、SNS上では他球団ファンより“自分たちの球団でもやって欲しい”というコメントが複数寄せられました。
*:セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンFacebookページ
また、21世紀のブランディングについて目を向けてみると、チームラボCEO猪子さんの言葉が参考になります。「20世紀のブランドは、例えば、すっごい高級で、すっごいかっこいい映像を撮って、その広告を流して、それがイメージをつくっていたわけだけど、そういうのは、これからはあんまりブランドをつくっていかなくなっていくと思うんですね。なぜなら、それで具体的に社会は変わってないわけじゃないですか。」「これからは、そのブランドが具体的に社会を前に進めることに……前に進めるっていうのは、今と違うところに行くってこと、問題を解決するってこと、人を違う価値観にするってこと、今低い価値観を高く上げるってこともそうだけど……そういったことに具体的にですよ、貢献することが、イメージにつながっていくんじゃないですかね。」
*:かっこいいだけの外見よりも、中身が面白いかどうかがこれからのラグジュアリーには重要
http://lexus.jp/10th/article/inoko/?adid=ag205_FB_20150521_10th&padid=ag205_FB_20150521_10th
社会を変える、社会を前に進めるブランドの意義を示唆されています。
ファンになってくれた人にチケットを買ってもらう・リピーターになってもらうための施策は専門の方にアイデアいただきたいですが、これまでのチームイメージを改善したい、または刷新したいとチームブランディングの再定義を検討するのであれば、社会を変える社会貢献活動の積極的活用に目を向けてはいかがでしょうか。
ただし、社会貢献はなんとなくやればいい、というものではありません。
むしろ社会貢献活動を「利用」するというやり方は、意外に見破られやすいもので、かえってマイナスの印象を与えることになります。
一方で、マンパワーが限られている現状で成果を上げることは簡単ではありません。
そこで2つ目です。
2つ目は、利益追求と社会貢献を同時に実施する体制づくりについて考えてみること。
現在も各チームは地域貢献を中心に社会貢献活動をしています。地域貢献はマーケティングの一環でもありますが、マンパワーに限りがある中で運営できていることはスタッフの多大な努力の賜物です。しかし、残念ながら成果でみた場合、例えば単発のクリニックや一過性の学校訪問では、チームもスポンサーも享受できる利益は限定的です。スポンサーのためではなく子どもたちのため、子どもたちを取り巻く問題解決のために実施しているのであれば、現場のニーズに合わせた計画性と持続性が必要ですが、体制が十分に整っていない状況ではかなり難しいです。
社会貢献活動は大事。でも、現状のお金と人手では優先度が高くならない。
そこで検討できることは、やれる範囲でやるという現状維持もありますが、限られたスタッフを効率的に稼働できる、利益追求と社会貢献を同時に実施する体制への移行です。
企業のCSR活動についても同じことが言えますが、CSRを単独でおこなうより、事業に組み込み、利益追求と同時に実行することで、成果を上げる例があります。
例えば、石けんのDoveやシャンプーのLUXなど一般消費財メーカーで、サステイナビリティの分野で有名なユニリーバ。ユニリーバは、2009年ポール・ポールマン氏がCEOに着任すると、2020年までに「環境負荷を半分にし、事業収益を2倍にする」ことを従業員と株主に宣言しました。そして、CSR部門をなくし、CSRを事業に組み込みました。CMOケース・ウィード氏の言葉を借りると、「最初に私がやったのは、CSR部門を事実上閉鎖して、従来型のCSRの概念から脱却することでした。むしろ、CSRを事業に不可欠な要素としてすべての活動に組み込もうと考えたのです。そうすれば、これまでCSR部門だけで行われていた活動が、栄養、水、衛生、健康、自己尊重などに向けた戦略的な取り組みに反映されます。」
結果として、ユニリーバは2014年末には2008年比で温室効果ガス37%減、水使用量32%減、持続可能な調達55%増、営業利益率は14.5%改善されています。利益追求と社会活動を同時に実施する体制を整えたことで、収益向上と社会を良くすること両方で成果を上げることに成功しています。
チームに置き換えて言うなら、
チームのアイデンティティとなるテーマ(環境、教育、子ども支援、発展途上国支援など)を決めて、スポンサー営業、チケットセールス、マーチャンダイズ、広報すべての仕事にそのテーマの取組みを採用する、ということです。
チームが既存の社会貢献活動の位置づけを見直すきっかけが訪れたとき、
利益追求と社会貢献を同時に実施する体制はひとつのモデルケースになると思います。
RESPONSIBALLのみならず、W杯やEUROのレガシー政策を見ても分かるように、地球規模の社会問題解決に向けた社会的責任をサッカー界に求める流れは既に訪れています。
リーグ、チーム、選手の在り方については、それぞれの目指すもの、サポーターが求めることなど様々な立場から様々な意見があります。大切なことはそうした多様な意見が交わされることであり、その中で、社会貢献活動への関心が高まることを望んでいます。
その結果、サッカーがより愛されるスポーツとなるだけでなく、社会問題が改善され、今の子ども・将来の子どもの未来が豊かになることが何よりも嬉しいことです。
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