『「難民出身」サッカー選手のゴールは偶然か、それとも必然か。』

(文・河内一馬)

2016年10月、ドイツブンデスリーガ・ブレーメンに所属する「難民出身」のサッカー選手ウスマン・マネーが、リーグ戦初ゴールを記録。サッカー界に新たな歴史が刻まれました。幼い頃からサッカーの英才教育を受けているわけでもない「難民出身」の彼が、どうして世界最高峰のリーグでゴールを決めることが出来たのか…。ここから先を読んでいただければ、それは限りなく「必然」に近いものだったのだと、感じるかもしれません。私たちは、その背景にある事実を知る必要があります。


UEFA FOUNDATION for children 

©UEFA FOUNDATION for children

https://uefafoundation.org/general-information/our-history


 欧州サッカー連盟(UEFA)が行っているプロジェクトの一つに、「UEFA FOUNDATION for children」という子供支援のプロジェクトがあります。ヨーロッパに限らず、サッカーを通じて世界中の子供たちを支援する試みで、今現在も多くのプロジェクトが同時に進められています。このような機関が世界に多く存在することからも、サッカーがどれほど大きな力を持っているのかがわかります。 


 シリア難民支援 

©UEFA FOUNDATION for children

https://uefafoundation.org/action/football-in-the-zaatari-refugee-camp/ 


 今回は、「UEFA FOUNDATION for children」と「Asian Football Development Project(AFDP)」がタッグを組んで行っている、シリア難民支援について書いていこうと思います。これは難民キャンプに住む子供たちにサッカーをする機会を与え、多くの効果を生み出すことが目的のプロジェクトで、以下が主な内容となります。

 ① 約3000人の子供たちにサッカーをする機会や安全な環境を与え、子供達が「子供のまま」楽しく過ごせるようにすること。

 ② シリアに住むサッカーコーチのスキルを上達させるとともに、スポーツの価値を最大限に利用し、社会問題に対する意識を高めること。 

③ ザータリ難民キャンプにサッカーリーグを設立すること 



©love.fútbol


以上3つの目的、つまりスポーツ活動やサッカートーナメントを組織するためには、プロジェクトを継続できる「現地の」コーチを養成し、安全なインフラを整えることが必要不可欠になってきます。 

このことは、我々love.fútbolが行っているグランド作りでも同じことが言えます。love.fútbolはただグランドを作るだけではなく、現地の人が、「自分たちで」協力してグランドを作ることにこだわり、そこからあらゆる町の問題を解決することを目的としています。ただ子供たちにサッカーをして楽しんでもらう、ただサッカーリーグを設立する、ただグランドを作る、というような活動に止まってしまえば、「継続性」という最も大切な要素を満たすことができません。


サッカートーナメントを設立することの意味

©UEFA FOUNDATION for children

https://uefafoundation.org/action/football-in-the-zaatari-refugee-camp


例えばサッカートーナメントを設立することで、キャンプ内にチーム、つまり「クラブ」が編成されます。訓練をされたコーチが監督を務め、自分達の「クラブ」というアイデンティティを持つことで、子供達はともに過ごし、サッカースキルの上達、尊敬、公平なプレー、チームワークなど、共同社会で生きていくために必要な価値観を学ぶことができます。 


 訓練をされたコーチ 

©UEFA FOUNDATION for children

https://uefafoundation.org/action/football-in-the-zaatari-refugee-camp/ 


 その「クラブ」の監督を務めるのが、同じようにこのプロジェクトで訓練をされた20〜40歳のシリア人やヨルダン人です。彼らはキャンプ内での活動に加え、これから先シリアの危機が終わった時、彼ら自身の雇用の可能性を高め、今後さらにプロジェクトを継続することができます。 そうなれば将来、UEFAやAFDPの支援が必要なくなる時がくるかもしれません。 継続性のある活動をしていくこと このように、世界各地の難民キャンプではサッカーを通じたプロジェクトが実施され、「継続」を実現するために多くの機関が工夫・努力をしています。私たち日本人にとって「難民」という問題は、遥か遠くの、どこかの国で起こっている問題の一つかもしれませんが、サッカーというスポーツを通じて、私たちも何かできることを探していかなければなりません。 このような活動が継続されている限り、今後「難民出身」のサッカー選手は確実に増えていくと思います。いちいちゴールをしただけではニュースにならないほど、それが当たり前になる時代が来るかもしれません。 

これからも、ここでこうして皆さんと一緒に学んでいければと思います。もし本当にそうなった時、我々日本人だけ、「知らなかった」というようなことにならないように。 


終わり。

【プロフィール】 

 河内一馬。

 1992年東京都生まれ。「FOOTBALLとは、一体何なのか?」を探るためにアジア、ヨーロッパを周り、教育、文学、アート、カルチャーの視点からFOOTBALLを表現するウェブサイト『Looking for Football』を立ち上げる。https://lookingforfootball.themedia.jp